「フードファイト第七回 感想」
〜誰のために戦うのか〜

川本 千尋


 たくさんのクサナギツヨシを楽しみました、今回のフードファイト。

 冒頭、園を去るミヤコと母を遠くから見る満。

 “母”の手をさする満。

 「嫉妬してんだろう」と裕太に突きつける冷たい言葉。

 「母さんじゃないなんて信じない」とつぶやく静かな時間。

 偽物だと気づいた瞬間からラストへの怒濤。

 園長の手を額に受けての、昇華。
 
 何度も見直し、思わず涙してしまいました。グッときました。
 
 しかし、お気に入りのシーンがこんなにたくさんある中で、今回のマイベストクサナギツヨシは、
 
 
 公園で初めて出会ったお母さんに「っていうか母そのもの」と言われたあとのなんとも言えない泣笑い、その直後の「……ホントに?」
 
 
 今回は感動編でしたが、わたしにとってはそれ以上に「うーん、やっぱりクサナギツヨシのコメディが見たい(笑)!」と改めて思う、コメディ編でありました。
 ギャグを言うとか変な動きをするとか、そういう笑いではなく、人と人の関係と構造から生まれる笑い。涙と紙一重の笑い。怒りと紙一重の笑い。困惑と紙一重の笑い。タガがはずれたような開き直った笑い。とことん軽い笑い。狂喜の笑い。
 
 いやー、いいぞ、コメディ! 絶対イケる。どうか、まともな脚本のコメディに出会うチャンスがありますように。
  
 そして今回のマイベストセリフ。
 「今日からわたしと一緒に寝ましょうね。それともこんなおばちゃんより、若い子がいい?」
 
 八千草薫さーーーんっ(涙)。ああ、あの八千草薫さんが、こんなセリフをまじめに、しかも九官鳥に向かって……。ありがたいことです。八千草さんにこんなことを言うのはあまりにも不遜ではありますが、これぞプロであります。もちろん八千草さんは別格ですが、このドラマに出てくる役者さんたちは、キャリアや出自の違いはあれ、みんなプロであります。みんな自分のお仕事を果たすことに最大限の力をそそいでいます。
 
 今回も、脱力するシーンはたくさんありました。笑えるツッコミは全部省略しますが、どうしても納得いかないのが、

 なぜ偽の母が麻奈美にあんな怒り方をするのか?

 偽母としては満を思う一途な心、を表現したかったのでしょうが、あんなやりとりでどうやって伝えるつもりだったのか。しかし、浅香さんの迫力と、恭子ちゃんのまっすぐな演技という、役者さんの個人的資質のおかげでなりたってしまったのは、いつもながらすごいなあ、配役の妙だなあ、と感心してしまいました。
 
 また今回は、満の説明ゼリフが多かった。母のこと、自分のこと、まったくよくしゃべる男だな、君は(笑)。とにかく、毎回、全部のことをその一回で説明してドラマが起きて解決するんですから、そりゃ説明も多くなりましょう。一話完結を遵守し、途中からでも視聴者がついてこられるように、という配慮には頭が下がります。
 
 なぜ満は、ハナから自分を捨てた母親を受け入れてしまうのか。
 
 それは、満がそういう男だから。
 
 すべてはこれで答えが出てしまうのですね……。
 そしてその満を演じるクサナギツヨシ。見事にだましてくれます。ギクシャクギクシャクしたストーリーの道筋を、力ワザで一本道にしてくれます。ファンの欲目ではありましょうが。
 
 残り4話となって、気になることがたくさんあります。
 
 荒れていた満を変えたのは誰なのか? 唯一の友だち・九太郎でした、で終わりなのか?
 
 麻奈美への想いは、たまたまボランティアで来た彼女に惚れちゃった、だけなのか? ライオンの雄が雌を守るために戦うと言うのなら、満は誰のために戦っているのだろう。つくし園の園長と子供たちなのだろうか。これだけ麻奈美の存在を煽るのなら、少年の満と幼い麻奈美の出逢いぐらいあってほしい。汚れなき幼女に魂を救われた、とか。その日から、いつか彼女を守る人間になりたいと思った、とか。
 
 如月が代りにデートする、と聞いてショックを受け、意を決して正体を明かそうとしたり、思わせぶりな独白をするかと思えば、結婚する気はありません、と言われて落ち込むでもなく「そりゃそうですけど」と流す。

 だいたい、お金を送ってくれる人に憧れるって、おかしくないですか、麻奈美も? 勝手にいろいろ想像して「お金持ちではなく、まじめに貯めたお金を送ってくれているのでは」って、毎月300万ですよ? 憧れるなら、手紙から伝わる人間性、でしょう、普通に考えたら? しかし、足長おじさんは手紙も何もナシ。麻奈美の手紙に如月先生が勝手に返事を書いたけど、麻奈美が憧れたのはそれより前。……ああ、わからない、この女の子。それなりの説明ゼリフはあったけど、人間の心の動きとしてわからない。でも、恭子ちゃんがためらいなく、まっすぐ演じてくれるから納得させられてしまうのですが。
 
 どうにもわからない、満と麻奈美の描き方。
 
 対して、満と冴香のシーンがいつもよいのはなぜでしょう? 一話からこれだけが単独のシーンだから、ではないでしょうか。ほとんどいつも、二人だけの世界。ストーリーどうこう以前の、立場の違う男と女、という設定。人妻、愛のない結婚、上下関係、敵味方。恋に落ちてはいけない要素が山盛りの中に置かれた、寂しくまっすぐな心を持つ男女が一直線に惹かれあうのは当然。テレビ雑誌では、満は反発し、嫌っているとありますが、どう見てもそうは思えない。というか、そうなるわけがない。
 
 だって、感じるからです。あの満なら、あの冴香の本当の心を。感じれば、惹かれるはずです。彼女の寂しさも、彼女の心の美しさも感じとれるから。感じるけど否定したい、感じるけど認めたくない、であり、決して本気で嫌ったり反発しているわけではない。冴香も、心の中には何かきれいなものがある、と、初っぱなから少なくとも視聴者には感じさせるものがありました。あふれてくるものがありました。『メッセンジャー』冒頭の尚美のように、ヤな女だなー、と思わせる描き方ではありませんでした。
 
 二人とも、人間として、悲しいほどにリアルです。このドラマには不似合いなほどに。満と麻奈美の一貫性のなさに引き替え、一話から一本の糸がきっちりと通っています。通っていますが……。
 
 満と麻奈美。満と冴香。果たしてこれでいいのでしょうか……。
 
 いいんですけどね、『フードファイト』だから(笑)。そう決めたんですけどね。どうしてもひっかかってしまうんです。
 
 ところで、主題歌“らいおんハート”。間もなく発売ですね。この曲、大好きです。「〜するそばから」という言葉の使い方が、わたしの感覚と違うのが気になったりするんですが、そんなこと些細なことで、とにかく、いい曲です。
 
 で、らいおんハートと言えば、松本が以前書いていた『ライオンハート』という映画。
 レンタルで見ることができました。いやあ……この映画、いいですよー。ぜひご覧ください。格闘技の天才ジャン・クロード・ヴァン・ダム主演のアクション作品です。
 
 ヴァン・ダム演じるリヨンは、過酷な外人部隊の兵士。ある日、弟の妻から、弟が瀕死の重傷を負った、と連絡が入るが、部隊の責任者は休暇を許可しない。やむをえず部隊を脱走して弟一家の住むロスアンジェルスへ向かうリヨン。しかし密航した船が着いたのはニューヨーク。
 ロスに電話する小銭もなく街をさまよううち、スラムの片隅で賭博ストリートファイトを見かける。ルールはナシ。ただ殴り蹴り、何をしてもいいから倒した方の勝ち。勝者には掛け金の何割かが手渡される。貧困と金への執着、暴力に沸き上がる抑圧された人々の血液。
 
 ファイトをぐるりと取り囲む、ギラギラ、テラテラと揺れる群衆。鉄格子はないけれど、これはまさに、本放送前に流れた予告編そのもの! いいですよー、この映像!
 
 さて。これから先のストーリーは、ここには書きません。ビデオをご覧になりたい方もおられるでしょうから。もしもネタバレはかまわないのでぜひ知りたい、という方がおられましたら、こちらをクリックしてください。
 
 シンプルな話ではありますが、設定が実にしっかりしています。主人公は最初からチャンピオンではなく、脱走兵という立場上普通の仕事にはつけず、しかし彼の匿名での援助がなければ義妹母子は生きていけない、というやむをえぬ事情から賭博ファイトに手を染めてゆきます。
 
 フードファイトはそのあたりの一切合切をばっさり切り落としていますが、この話はタイガーマスクなのだ、だから愛する人たちのために内緒で戦うのはお約束、と、ドラマそのものではなく、テレビ雑誌や新聞、放送前の特番などで流布することで納得させています。
 
 逆に言えば、それらの事前情報を見ていない人にとっては「何コレ? タイガーマスクのパクリじゃん!」であり、そういう人に対しては「だから最初からそう言ってるでしょ」と切り返す。もしかしてもうひとつ、切り返しが用意してあるのかもしれない(笑)。
 
 ドラマとして、いまだに釈然としないのが、ここであります。
 
 まあ、でも、フードファイトだから(笑)。ねっ。
 
 で、とにかく、ライオンハート、オススメです!
 
 なお、レンタルビデオの冒頭に入っていたジャンの作品の宣伝。フードファイトを彷彿とさせるものがありました。だって、どかん!と出たテロップが、
 
 “機動戦士ヴァン・ダム”

  

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