VOICE reading 椿姫 with 草なぎ剛 感想


挑 戦!
★2月14日に観賞しました★

naomi


初めて体験できたクサナギツヨシの舞台は、私にとって夢のような体験だった。
久々に聞くオペラ歌手の生声、しかもさすがはサントリーホール、音響は抜群、ホールが小さい分たっぷりと味わせていただいた。初めて聴かせていただく田村麻子さんの軽やかな声、リズミカルで情緒たっぷりな歌い方に、最初のアリアから新鮮な感動を覚えた。それだけでも弾む思いなのに、ファンになって以来の願望だったクサナギツヨシの舞台が、そのアリアと一緒に味わえるのである。それも、けっしてあり得ないと思っていた小さな空間でのクサナギツヨシの舞台。それを観賞してしまったのである。本番の舞台は暗く、歌のときは歌手だけが、朗読のときはくさなぎ君だけが、浮かび上がるようにスポットが当てられる。白い衣装のくさなぎ君。赤い衣装の田村麻子さん。映像的にも夢のような、思いきり朗読の情景を空想できるセッテイングであった。しかも、しかもである。脚本演出担当の土田さん。あなたのシナリオはまさしく私の大好きな世界です。芝居の楽しさに目覚めてン年、何本かのステージを体験したのですが、土田さんの書いた台詞、ストーリー展開、正しく私好み。なかなかお目にかかれません、こういうの。ウエットなストーリーでしたが、エンディングが暗くないのが嬉しいです。ヒロインの死で終わったりしない。主役の有谷くんの、この仕事に就いてちょうど1年目の業務日誌で終わっている。「ああ、有谷くん、すっかり仕事に慣れたんだね、頼もしくなってきたね」と思えて終わるところがなんともいい。途中で泣きましたが、その涙がすっきりした。オペラ「椿姫」とのコラボレーションということなので、内容は古典的、言い方変えれば「臭い」。それをあっけらかんと、とぼけた、笑いを誘う会話で展開していくのがイイ!

 今回のクサナギツヨシの舞台を、私はこうして幸せに体験できたわけである。
 ことに、クライマックスシーンなど、今でも思い出すと涙がにじむ。つまり、先日のフジテレビ系とくダネでやっていたくさなぎ君への密着取材(2月15日放送)で、くさなぎ君が感情を露にして泣きながら読み上げるシーンである。
 ヒロイン「椿」への誤解を解いて、別れた恋人が死にかけている「椿」を探すシーンである。

 ―古田君はずっと泣きながら電話帳を調べていました。
  「ごめんな、ごめんな」と呟きながら泣いていました。


 演出家はクサナギに「感情を押さえろ」と言う。「そのほうが客に伝わるから」と。
 実際に私が体験したクサナギのこの部分の語りは、TVとはまるで違っていた(放送された初日の様子も含めて)。同情の暗い響きはあったと思う。しかし、有谷の報告として語られるこの部分はむしろ淡々と語られていた。この後の

 ―しかし、まだ諦めません。調べます。

 には、前向きな明るい響きさえ感じた。

 正直、椿が死の病にかかったらしいとわかった頃、あまりのストレートな展開にがっかりしたのも確かなのだ。しかし、クサナギの語る椿の言葉にピアノの伴奏が入り、クサナギが傍らのキャンドルを灯す頃、アリアがいつしか椿の心の歌に聞こえるようになってしまっていた。そして、「ごめんね、ごめんね」をクサナギが口にした頃、どうやらクサナギの押さえた涙は私に突き付けられてしまったらしい。胸の痛みを覚え、もう聞いているのが辛いとさえ思った。涙がこぼれた。クサナギが2人の再会を暗示することを語ると、歌手にスポットが当たる。ビオレッタの最期の歌だ。オペラ椿姫の最期を思い出してしまう。闇の中に「死」という文字が浮かぶ。苦しくて辛くて、胸が痛かった。私の中で2つの物語は重なってしまった。(思い返すと、ちとクヤシイ。メロドラマキライなのに)(苦笑)

 この部分の記憶を宝物のように感じ、私はこの公演を素敵だった、素晴らしかったと人に語ったりしていた。しかし、そのうちに私がこの公演を観るにあたって、稀だと思うほど幸運だったということに遅れ馳せながら気づいたのである。

 だいだい、アイドル クサナギツヨシのファンのどれほどが、椿姫のアリアを心地よく聞いて、椿姫の情景を思い浮かべられるだろうか。もちろん、この舞台には工夫が凝らしてあり、そんなものは知らなくても舞台を楽しめるようにはなっているのだが。私が狂喜した土田英生氏のシナリオも好みが分かれるところなのかもしれない。また、椿はあくまでも蓮っ葉な娘である。まっとうな青年と本当の恋に落ちて、悲しい出来事の後に恋人から身を引いたにせよ、彼女に同情を示せない方々がいることは当然と思う。クサナギツヨシの語りにしても、たとえばけして良いとは言えない滑舌や、発音の不明瞭さが鼻に付いたなどと思い、語りが素直に耳に入った観客ばかりいたわけではないだろう。

 粋な演出、舞台の幻想的な事、田村麻子さんの歌唱力、くさなぎ君のビジュアル等々、それら個人的な条件の違いによるこの公演の感じ方の違いを埋められるような、さまざまな工夫や要因があるのは確かである。それでも、この今まで同じステージでコラボレートするとは誰も思わなかった要素を、すべてそれなりに理解し、楽しめる観客はかなり限られていた筈である。公演後の大拍手、スタンディングオベーションさえ見られたこの舞台は大成功と言えるのだろうが、人により、他の舞台以上の印象や感想の違いがあったように感じるのだ。

 この公演のブックレットのそれぞれのコメントが面白い。この舞台に「自分しかいないんだよね」と言いきるクサナギ。自らもオペラを見た事がない。そんな人達にオペラへの導入口を開くのが僕の仕事だという土田。クサナギと自分の共演を「デジタルとアナログの共演」と解釈していると言う田村。

 確かに、初めて聞くプロのアリアに感動した、という感想をいくつか聞いた。また、訓練されたプロの歌声に必要以上に緊張して、字幕の意味を追いかけていたという感想もネットで見かけた。それでは解らないと思うんだよね、今回の舞台の本当の面白さって、残念だけど。

 それから確かにTVでアイドルのクサナギツヨシだが、TVではなく、生でこそ彼の魅力は十二分に味わえるのだ(改めて実感したなあ)。それを良く知っているファン達は「生のクサナギツヨシ」見たさに、今回の舞台のチケットを夢中になって獲得したというのに。田村さんは共演後、クサナギツヨシに対する認識が大きく変わったと思うのだが、いかがなものだろうか。

 そして、クサナギツヨシ。確かに、今回の舞台で彼の渡された台本の台詞を言うのは彼だけです。でも、舞台にはくさなぎ君一人なの?  クサナギが朗読をしたい、と周囲に漏らしたところからはじまり、少しずつ企画が練れて来たのが今回の舞台だという。斬新で大胆な企画である。つくづく関係者各位、舞台を開けてみて初めて解った事が多々あったであろうと思う。そう思い当たるとき、この舞台はまさしく実験以外の何ものでもなかった、と私は思うのである。

 クサナギツヨシは、この実験をやってのけた。誰も体験した事のない、考えた事もない取り合わせのこの舞台に挑戦した。その果敢な挑戦は彼ならではのことであろう。その朗読は受け取る側の違いで捕らえ方の差が大きかったとはいえ、きちんとオペラとの融合を見せてくれた。

 私はこの舞台が、クサナギツヨシにとって何よりも『役者修行の場』だっだと思っている。先日のTVドラマ「スタアの恋」では、むしろ言葉なしで体で感情を表現していた。今回は言葉だけで、観客に夢を見せてくれる挑戦をしてくれた。それから、実は私には今回ですらあまり気にならなかったのだが、彼のコンプレックスのひとつである、滑舌の悪さ、発音の不明瞭さなどを大きく矯正するいい機会であったと思う。何より私には、この企画が音響の良い、小さな劇場で行われたということが大変嬉しい。大きな劇場や、TVや、はたまた大会場でのコンサートなどの経験しかない彼に、自分の演技に反応する客席の吐息や涙、息を飲む気配などもたっぷりと感じる体験を是非して欲しかったのである。それは画面を通して演じるクサナギツヨシの息遣いが、役への全力投球ぶりが、何時も見ているこちらに伝わって来ていたからであり、是非こちらの反応を、演じる彼と同じ空間で直接届けたかったのだ。それは、もっともっと役者として飛躍して欲しいという、ファンとしての私の願望であり、夢だったのである。

 クサナギツヨシの声は、ホールを包むように響いた。普通の会話のようにナチュラルで、暖かい語りだった。感情は十分に押さえられており、彼がこの悲しい物語に稽古中に流した涙は、観客に突き付けられた。私の大好きな彼の演技を、フラットでナチュラルな、なのに役に入りこんで感情を伝えてくれる演技を、声だけでだったけれども、存分に生で味わせてもらった。「台詞を口にすると、自然に怒ったり、悲しくなったりしてしまう」という彼のコメントは何時のものであったか。演じ続けることで、技巧は少しずつ彼の中に生じている。でも、彼は今回も物語の世界で本気で生きて、その世界を観客に届けてくれた。

 今回は演じる方も見ているほうも、かなり緊張を強いられるステージであった。その空間が懐かしくもあるが、私は今、今度は開放されたクサナギが見たくてたまらない。動きのある舞台で思う存分、役を表現するのが観たくてたまらない。今回の舞台で押さえ込んだものを、ある意味思いきって放出する。そんなクサナギを観たくてたまらない。



  以下は、4人に宛てた落書きです。トイレではなくここに貼っておきます。

   くさなぎ君、ブックレットに書いてあったけど、この舞台「自分しかいないんだよね」じゃ、なかったでしょ。見ている私たちのため息も笑いも感じながら、5人の役を、時に可笑しく、時に切なく演じてましたよね。田村さんのアリアと高田さんのピアノで、くさなぎ君の朗読はより深いものになっていたよ。今回のような舞台を経験してくれたということが、ファンとして私には一番嬉しいです。また舞台をやってください。贅沢なお願いだけど、やっぱりこの位の規模の劇場でまたやって欲しいです。思いきって演じている姿が今一番観たいです。

   田村さん、本当に素敵なアリアでした。いろんな場所で歌ってらっしゃるんでしょうか。場慣れした、堂々とした歌い方が大変印象的でした。今度は是非、ご出演のオペラを拝見したいです。田村さんのお芝居心をしっかりと見届けたい。

   土田さん、大変素敵なお芝居でした。朗読台本は「スタアの恋」のくさなぎ君の演技を見て書かれたものなんでしょうか。あの草介の熱演が私は好きでしたが、私はあのドラマにいくつか不満もありました。草介のようないいひとキャラ有谷に、のどかな、コミカルな台詞を与えてくださってありがとう。MONOのお芝居を是非今度見せて頂きたいです。クサナギツヨシの動きのある芝居など、作っていただけると大変嬉しいです。今回のように何が何でも飛んで行って観賞させていただきます。

 高田さん、素敵な伴奏をありがとうございました。私にとってはくさなぎ・土田・田村のコラボレーション全体を、さりげなくしっかりと支えていらしたのが高田さんでした。今後高田さんが音楽を担当された作品を拝見できれば嬉しく思います。 

                                                            

naomi  デヘデヘ




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