『スタアの恋』第一話、第二話

〜Once upon a time, there lived a man and a lady……〜

川本 千尋


 なんというテンポの良さ!

 拡大版で少し長い第一話を見終わって、しばらく固まって動けないほど感動してしまいました。
 おとぎ話の物語がステキだなーとか、クサナギツヨシの芝居よかったなーとか、藤原紀香やっぱかっこいいっ!とか、そういう感動もありますが、それよりももっと、なんだろう、これ、ドラマとしてかなりいいんじゃない? いいんじゃない、って自分で控えめに思おう思おうとするけど、これってかなり、傑作じゃない? と、終わってすぐもう一度見直して、やっぱり面白い。

 まず自分はクサナギツヨシが大好きであり、藤原紀香、筧利夫、勝村政信、古田新太、森本レオ、戸田恵子、宇梶剛士、伊原剛志等共演者も元々好みの人たちであり、今まで知らなかったけど長谷川京子も「この子いいじゃーん!」と大のお気に入りになり、唯一のアホキャラを演じる安西ひろこの、これこそ天然?のスーパー無神経キャラクター麗子がこれからのおとぎ話をどう壊していくのか超楽しみになり、何よりびっくりしたのが岸田健作! うわああ、健作! あんた役者やってたの!? しかもはまってるよ、いいよ、パーティ会場の細かい芝居もバッチリだよ、と手を叩いて大喜びし……
 とまあ、始まる前から、そして始まってからも先入観とシンパシーバリバリですから、そりゃ点数は相当甘いと自覚しています。

 それを置いても、第一話、よくできてる。シナリオ・演出側とキャスト側、どちらも素晴らしい。最初だから随所に固さは見えますが、それを十分にカバーする練りこみかた。そして、シナリオの日本語が自然で美しい(涙)。いや、こんなこと当たり前なんだけど、これから3ヶ月、クサナギツヨシが不自然な日本語を話すのを聞かずにすむんだー、自然な言葉を話すクサナギツヨシが見られるんだー、と、それもかなり嬉しかった。
 連続ドラマの第一話は登場人物の紹介を兼ねるので説明的になりがちなのですが、それもあまり感じなかった。設定がシンプルなせいでもありましょうが、作りがうまいなあ、とまた嬉しい。ヒカル子と草介が出会う前の日常、そのギャップ、そしてギャップのある二人が出会う、それだけを描く第一話。
 鈴木雅之演出ならではの、いちいち話者がアップになるという画面作り、苦手な方もおられるかもしれませんがわたしはかなり好きです。コミカルなシーンはじんわりいかずにポンポンポンポンすごい勢いで投げてくるので、こちらは前のめりになって次を待ち続けて、気がついたら全部終わっていたという感じです。
 で、見終わって、なんかすごく中身が濃かったなあ、草介とヒカル子がよくわかったなあ、と考えながら、ふと、もしかして全シーンにどちらか一人必ず出てなかった??

 チェックしてみました。「シーン」の捉え方はかなり曖昧ですので、あくまでバカなデータオタクの個人的趣味として許してください。どのシーンに草介とヒカル子が出ていたか、出ていなかったか、の一覧です。

シーン
草介
ヒカル子
サンマルコの椅子草介モノローグ
街頭草介ヒカル子モニター・写真
書店
ヒカル子写真
ビル入り口
ヒカル子写真

ヒカル子写真

ヒカル子写真
映画祭入り口
ヒカル子
映画祭会場内
ヒカル子
映画祭外
ヒカル子
森(弓道)草介
神社草介
ホテル(婚約解消)
ヒカル子
廊下
ヒカル子
公衆電話草介ヒカル子看板
事務所前
ヒカル子
事務所内
ヒカル子
サンマルコ外草介
サンマルコ内草介
レストラン
ヒカル子
ラーメン屋草介
ヒカル子の部屋(発熱)
ヒカル子
草介の部屋(発熱)草介
事務所前
ヒカル子
アパート前草介
撮影現場
ヒカル子
サンマルコ冷蔵庫草介
病院ドラマ撮影現場
ヒカル子
サンマルコ社内草介
制作発表
ヒカル子
草介の部屋草介
ヒカル子のバスルーム
ヒカル子
草介の風呂場草介
草介の部屋草介
ヒカル子の部屋
ヒカル子
草介の部屋草介ヒカル子テレビ
ヒカル子の部屋草介モノローグヒカル子
草介ヒカル子看板
■タイトル■草介写真ヒカル子写真
■CM■
サンマルコ外草介
サンマルコ内草介
サンマルコ外草介
サンマルコ内(社員出て行く)草介
サンマルコ内廊下
ヒカル子
サンマルコ内草介
サンマルコ内廊下
ヒカル子
サンマルコ内(二人の出会い)草介ヒカル子
★サンマルコ廊下(社員帰ってくる)
サンマルコ内草介
移動車内
ヒカル子
マンション前
ヒカル子
事務所ビル前草介
事務所ビル受付草介
事務所ビル前草介
事務所/ビル前草介
★事務所ブラックリスト
事務所ビル前草介
ヒカル子の部屋
ヒカル子
■CM■
サンマルコ内草介
スーパー草介
草介ヒカル子看板
サンマルコ営業車草介ヒカル子声
営業車を置いた道草介
サテライトスタジオ草介ヒカル子
移動車/スタジオ外草介ヒカル子
スタジオ外草介
営業車を置いた道草介
営業車を置いた道草介
事務所
ヒカル子
サンマルコ内草介
ヒカル子の部屋玄関
ヒカル子
ヒカル子の部屋
ヒカル子
ヒカル子の部屋玄関
ヒカル子
草介ヒカル子看板
ヒカル子の部屋/土方の部屋
ヒカル子
★土方の部屋
ヒカル子の部屋
ヒカル子
★サンマルコ廊下〜バイク便
サンマルコ社内草介
移動車内
ヒカル子
サンマルコ内草介
■CM■
パーティ会場前路上草介
パーティ会場控え室
ヒカル子
パーティ会場控え室前廊下
ヒカル子
パーティ会場プレゼント
ヒカル子
パーティ会場入り口付近草介
パーティ会場金田中監督草介
パーティ会場ハム草介
パーティ会場社長と監督草介
パーティ会場監督とヒカル子
ヒカル子
パーティ会場シャンパン草介ヒカル子
■CM■
パーティ会場外草介ヒカル子
★抜きカットパーティ会場窓
パーティ会場外草介ヒカル子
★抜きカットパーティ会場窓
パーティ会場外草介ヒカル子
★抜きカットパーティ会場窓
パーティ会場外草介ヒカル子
記者会見場
ヒカル子
草介ヒカル子看板
草介の部屋草介ヒカル子テレビ
記者会見場
ヒカル子
★抜きカット(驚き)
サンマルコハム内のテレビ
ヒカル子
草介の部屋草介ヒカル子テレビ
移動車内
ヒカル子
エンドタイトル草介ヒカル子


 ★印のついているシーンのみ、草介もヒカル子も出ていないのですが、これ、普通はシーンと呼ばないのかもしれません。わたしは「カットではなくシーン」としてとらえたのでカウントしていますが、逆に、ヒカル子と土方の電話、事務所と草介の電話は、それぞれワンカットずつワンシーンとしてカウントすべきかもしれませんし、パーティになるとどのへんがシーンの切り替わりなのか、よくわかりません。見落としもたくさんあると思います。本当は、シーン単位の秒数もとっていたのですが、途中でわかんなくなって諦めました(涙)。時間ができたら、完成、は無理ですが、もう少し細かくデータを入れたいです。と言いつつ、非常に曖昧でデータなどと呼べる代物ではありません。お許し下さい。それでも、実感はしていただけますでしょうか。★のシーンもすべて前後のシーンとのつながりであり、ほとんど秒単位です。ですからほぼ全シーンに必ずヒカル子か草介が映っていたのですね。

 主演二人を中心に周辺の人々と事情を描き、説明ゼリフを極力使わず、テンポよく物語の世界をちゃんと伝える。第一話では星新一の『ボッコちゃん』を思わせる精巧なお人形のようなヒカル子。人間ヒカル子まだ見せてくれないから彼女の気持ちは想像することしかできないのですが、その代わり、冒頭と序盤の前のモノローグを草介に担当させて、どうぞ草介に感情移入してくださいね、とオリエンテーションする。用意周到で練りこまれたシナリオと演出。
 第二話は一話をコンパクトに紹介しつつ物語になだれ込み「庶民の生活にいきなりスタアが飛び込んできたら?」というドタバタと「スタアたちの恋愛ってどんな恋愛?」という無駄に豪華なシーンと、双方のステレオタイプを丁寧に描いてゆきました。その分、どうしても物語の「つなぎ」の色合いが強くなってしまった感がありますが、次回への期待をきっちりつなぐ仕上がりは見事でした。

 2時間から3時間で完結する映画や舞台、とくにエンタテインメント作品の場合、序盤から中盤はそれなりにじっくり、しかし飽きるほど長くなく、そして中盤から終盤に向けてどんどんテンポを上げてゆく、というのが王道の作り方だと聞いたことがあります。テンポは上げなくても、1シーンや1場を段階的に短くしてゆく。エピソードワンじゃない方の『スターウォーズ』や『雨に唄えば』など、その基本に則った名作ヒット作は数知れません。

 連続ドラマは事情が違いますが、それにしても第一話、草介がパーティ直前に携帯電話でふられてしまうシーン以降の時間の流れはどうでしょう。次のシーンは控え室でひっそりと座るヒカル子の背中。そして賑やかで華やかでわさわさとしたパーティへ。しかし彼と彼女の時間だけはゆっくり、じっくり、流れ始めます。
 1時間×11回と見るか11時間の作品と見るか。『スタアの恋』は、コメディとしては単独の1時間×11回、ラブストーリーとしては11時間として楽しもうかなあ、と、第一話、第二話を見て思いました。

 中園ミホのシナリオ、鈴木雅之の演出があまりにもツボに入ったのでストーリーや構成方面ばかり書いていますが、キャストも素晴らしい。

 藤原紀香!!

 元からかなり好きなひと。コマーシャルがステキでおもしろくて、FUNのざっくばらんな雰囲気、K−1の熱さも好き。なのにどうもドラマはあまり縁がなくて『ハッピーマニア』と『億万長者と結婚する方法』がちょっと好きだった程度。『昔の男』はしっかりはまらせてもらいました。キレイなのに、キレイだから、あの環境では絶対報われない女性。内舘脚本、かなり好きでした。ただどうしても話の中心は富田靖子にいってしまうので、もう一段階、何か違う藤原紀香が見てみたいなあ、この人の使い方ってこれだけじゃないよなあ、と思っていた矢先、クサナギツヨシと共演のニュース。小躍りしておりました。

 筧利夫、勝村政信、古田新太。最終回まで楽しみ!大好き! 語彙がそれ以外出てこないほど好きです。ここに放り込まれた長谷川京子が浮いてないのもすごいことですよね。
 戸田恵子、超売れっ子を抱えるプロダクションのやり手社長、大はまり。宇梶剛士、ちょっとこれ、今までで一番いい役になるかも??? すべての出演作を見ているわけではないですけど、だいたいこのポジションの役多いですよね。今回はかなり男の魅力を発揮してくれそうでワクワクです。
 安西ひろこ、岸田健作。この若い二人が、おとぎ話を随所でぶちこわしにかかるステキなアクセントになってくれそうでとてもとても楽しみ。ぶちこわされてこそ、おとぎ話は切なくかわいく再生してゆきます。

 そして、クサナギツヨシ。

 クサナギツヨシのお仕事は、役者、バラエティタレント、歌手。
 もうひとつ、

「ファンタジーをリアルにする人」。

『スタアの恋』でクサナギツヨシが演じるサンマルコハム社員・中田草介は

 どこにもいない「どこにでもいる平凡なサラリーマン」。

 なんのとりえもなく、真面目で誠実で恐ろしく時代錯誤でどうしようもないお人好しで、しかもそばにいて鬱陶しくない。こんなやつぁ絶対いない。雲の上だけ歩いてきた天使のようなスタア・ヒカル子以上にいない。なのに、なんでしょうか、このリアル感は。

『いいひと。』、『フードファイト』は「明らかにこんな奴世の中にいない!」主人公でしたが草介は「いるような気がする」。いてほしいなあ、と思う。以前にも書きましたが、『じんべえ』がスタートする前のインタビューでクサナギツヨシがこんなふうなことを言いました。「悪役もやってみたいけど、今は普通の人の役をたくさんやりたい。見ている人に“こんな奴いたらいいな”と思ってもらえるような普通の人の役」。


 どこにでもいるよね、こんな奴。たまたま自分の周りにはいないけど、きっと世の中たくさんいるんだよ、こんな奴。自分の周りにも、こんな奴いたらいいのにな。そう思わせる人。


 中田草介は、見事に、
 本当はどこにもいないのに世の中たくさんいるように見える
 「こんな奴」
 であります。

 ところで森本レオの金田中監督。誰なんだ金田中監督(笑)。

 特にモデルはいないのでしょうが勝手に思い浮かべてしまうのは、まず、叙情あふれる名作を撮れる監督と限定した上で、役者があれだけビビッたり媚びたりする大物ぶりは故・黒沢明、飄々とした雰囲気は鈴木清順、芸能界的人間関係が嫌いでシャイというところで岡本喜八。そしてもうひとり、積極的に人間関係を急がず、出会える人とは時が来れば出会うはず、と待ち続ける大林宣彦。
 今年クランクインした『なごり雪』の舞台は大分県の臼杵。『なごり雪』は臼杵出身である伊勢正三の名曲から着想した作品ですが、もっともっと、かなり以前に大林監督は伊勢正三の曲を自分の映画で使いたくて当人にコンタクトをした。しかし「とても嬉しいけれど今はそういう時が来ていないような気がする」と断られてしまった。その時はそれで終わり、数年経ってまた別の作品を撮ろうかという頃、ある人のつてによりパーティで伊勢と会う機会があったにもかかわらず、監督は出席しなかった。そういうところで頼むものではないし、時が来ていないと思ったから。そして今年『なごり雪』を映画化したい、それも伊勢の出身である臼杵を舞台に、という明確な企画が成立し、晴れて伊勢に申し込んで快諾されたのだそうです。大林監督自身のインタビューを読んで、いい話だなあ、と思ったのですが、その原文がないので記憶違いが混じってるかもしれません。あらかじめお断りします。ごめんなさい。

 とにかくとっても魅力的な金田中監督。椅子を主人公にした映画が、実は『スタアの恋』自体だった、というオチは容易に想像できますし、それでもおとぎ話としては拍手してしまうのですが、でも、でも、

 中田草介を、おとぎ話の主人公で終わらせないでほしい。
 どこかに本当にいるかもしれない「どこにもいない一般人」として完結させてほしいなあ、
 と、第一話、第二話を見終わってしみじみ願うのです。

……then, they lived happily ever after.

 大人のおとぎ話『スタアの恋』。
 いつか「めでたしめでたし」になってほしいし、そうなるのはわかっていても、いつまでも読み終われない不思議な本であってほしい。
 わたしにとって、それほど大好きなドラマが始まりました。




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