「フードファイト第八回 感想」
〜ノジマファイト!〜

川本 千尋


松本も呆然と見終わったのに、感想を書き上げるのの早いこと!
申し訳ないことに、わたしは呆然としたまま一週間過ぎてしまいました。
今回のタイトルを見ると「野島さん、がんばって」という意味だと思われますよね、普通。でも、そうじゃありません。

まさかこんなにすごいファイトを見ることになるとは。

フードファイトじゃなくて、クサナギツヨシの野島伸司とのファイト“ノジマファイト”。

うーん、すごい。野島伸司、すごい。初っぱなのボロボロ脚本から、次第に「あれ?」と思わせて、「なんかまともな話になってきた?」と思わせて、じゃあこのままいい話系に行くのかな、と思わせて、猫だまし。いや、猫だましじゃないな。豪快なうっちゃり。それも、投げられた視聴者が国技館の天井を破って外に飛んでいくような……。

今まではかなりイヤミこめてほめてましたけど、今回は本当にやられた。
ここまでやるか、野島伸司。
なんのための日の丸、なんのための大和魂、なんのための大東京音頭。

本当の愛とは何か。偽りの愛とは何か。心の飢えとは何か。
結局当たりを引けないかもしれないけど、それでも明日は引けるかも、と希望を持って生きる。

それだけでいいのに、日の丸で大東京音頭で大和魂。それを、爆笑で終わらせるか、心に伝えるものを残せるか。


ほら、クサナギツヨシ、これができるかい、キミに?
やるしかないでしょ、野島さん。


そんな会話が聞こえてきそうで、手に汗握りました。
こんなとんでもない球を投げる野島伸司も野島伸司だし、それを打ち返してしまうクサナギツヨシもクサナギツヨシだ。
こっちは、たまたま遊びに来ていた友人と「まさかさー、盆踊りのリズムで勝つ、とかやんないよね」「まさかー(笑)」と言いながら見始めて、それが現実になった瞬間の部屋の空気。冗談でも何でもなく、10秒間は口を開けたまま沈黙。直前に「満、今回はピンチだね」と言っていた友人が沈黙を破った言葉は、「ある意味、今、わたしたちがピンチだ」。

「大和魂をなめんなよ」って、ものすごく残酷なセリフですよね。だって日系でしょう、カルロス? 移民の子孫で差別と貧困の中で育ったカルロス。日本人の血を呪うカルロス。その彼に、「大和魂をなめんなよ」。すごいー。

一話からずーっと、信じること、愛することを麻奈美や子供たち、そして対戦相手に伝えてきた満。冴香の弟に「心の仮面もそうやってはずせばいい」なんて言えてしまう満。そんな満の心の底の、差別によって受けた深い傷をえぐりだす、カルロス……のはずなんですが、カルロスという人物の造形がもうひとつ鮮明でないために、8話まであれだけ「愛の人」だった満が、簡単に追い込まれてしまう説得力がありませんでした。しかし、思慮深い園長先生がしつこくしつこく言い続ける「宮園食品という一流企業に就職したことを喜ぶ」言葉がここに結びついていたのですね。

治安もいい、食べるものにも困らない、ぶくぶく平和太りした日本。親がいなくたって環境はいいじゃないか、と責め立てるカルロス。俺が育ったラテンの国は、親がいない子供は必死に這い上がらなきゃのたれ死になんだ。愛だの夢だの希望だの、そんなものはないんだ。

そこまで憎しみに凝り固まったカルロスに勝つのは、裕太が思い出させてくれた、明日を信じる力。満自身がもっとも強く持っている力。……それだけでじゅうぶんなのに、大東京音頭を経て大和魂。

“野島伸司”の真骨頂。

ようやく、ようやく、「論理的な文脈がおかしいけど細かいことはどうでもいい」ではなく、「論理的な文脈がおかしいけど文学的文脈で読みとらせる」ドラマにするつもり……らしい。

今まで、主にフジテレビで作られてきたクサナギツヨシの主演作は、その時の彼にできるであろう、最も適しているであろう作品でした。スタッフが役者としての彼の成長を常に見守り、着実に、彼が打ち返しやすい球、少し背伸びして打ち返してほしい球を投げ、彼は打ち返して成長してきました。どれもいい作品でした。

しかし今回、野島伸司がクサナギツヨシに投げている球は、彼が打席で待ち受けたことはおろか、他人の試合ですら見たことがない、とんでもない魔球です。試合開始直後は、呆然と見送るか、とりあえずバットを振り回してみるしかなかった。バットを横じゃなくて縦に振れば当たるかも、とか、目をつぶってみよう、とか、いっそ思い切ってバットを投げてみようとか、諦めずにトライしているうちに、コンスタントに打ち返せるようになった。魔球とクサナギツヨシのバッティングの呼吸が合ってきた。

やっと合ったと思ったら、「盆踊りのリズムで踊りながらステーキを食え。しかも説得力をもって」。

これはもはや、魔球どころか野球のボールですらない。打席に立っていたら、いきなりタンスが飛んでくるようなものです。そんなものを投げる野島伸司の怪力もすごいが、打ち返したクサナギツヨシの底知れぬパワーもすごい。

もう一人、忘れてはならないパワーウーマン、深田恭子。彼女以外に、麻奈美は思い浮かばない。ここに至るまでの数々のむちゃくちゃな展開を、ぶっちぎって直線にしてしまう力。あのまっすぐな、疑いを知らぬまなざしの力。

ヒーローでありながら、心の奥底に抱えた傷ゆえに曲がりそうになる男。それを、光へと導く女。

これを、もっと前からきちんと描いてくれたら、もっともっともっともっと、ここに来て盛り上がったのになあ……。

いやいや、言うまい。それではまともな野球になってしまう(笑)。

さあ、ラスト3試合。野島伸司は何を投げるのか? クサナギツヨシはどう打ち返すのか? そもそも、投げて打ち返す、という原則すら守られるのか?! 怒濤の展開、楽しみですっ!

って、なんかホメ基調になってきた理由はもうひとつありまして、実はオフィシャルホームページの懸賞で、フードファイト特製ランチセットが当たっちゃったんです〜〜(笑)!
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(注)フードファイトのサントラが大変気に入ってエンドレスで聴いているため、頭がかなり煮えてます。
  

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