「フードファイト第六回 感想」
〜見てくれる人のために〜

川本 千尋


 おもしろいっ(笑)! カッコイイっ! みんなカッコイイ! ダメ人間な時も、燃えているときも、みんなまとめてカッコイイ!
 すごいなあ、ダレる役者がいない。
 雑誌のインタビューで「みんなで綱渡り」とクサナギツヨシが言っていましたが、まさにその緊迫感にあふれています。「僕たちが本気でやらなきゃ誰がやる」であります。その意気込みが、すべての役者さんに感じられる。いやあ、すごい。実際、クサナギツヨシがどういう意味で「綱渡り」と言ったのかは知りませんが(笑)。

 マジで、今回はほとんどワクワクしながら見ちゃいました。それはホントです。「わーい、楽しかったあ〜」と見終わりました。

 いやあ、今回もそりゃあ脚本はすごいっ。九官鳥が友達だから鶏肉食べなくなったとは! 「田舎でおじいちゃんが鶏シメるのを見てから食べられなくなった」なんて話はよく聞きますし納得行きますけど、友情のため、ですからね。しかも満の側で勝手に友情の証として鳥絶ちをした、というのなら泣かせる話です。しかし九太郎自身が「(鳥の肉食ったら)ハンザイダ、ハンザイ!」って、あの九官鳥のヤロー、友情に条件つけてるんですよ! 条件つきなんて、そんなの本物の友情か(笑)!!

 出会ったときすでに3年生ぐらいですよね。それまでは普通に食べていたんですよね。それ以降食べなくなったんですよね。食べられないのではなく「食べなかった」んですよね、友情の証として。で、満くん、「食べない」のに「食べられない」ようなリアクションするんですね。見ただけで「ひゃあああああ」って。食べないでいるうちに食べられなくなったってことなんでしょうね。
 しかし、できるだけ安く・おいしく作るのが宿命の団体給食で一週間に一度も鶏肉が出てこないなんてあり得ませんから、園にいるときも、いろいろと大変だったんでしょうね。だけどそんな話題、今までに一度たりとも出てきませんでしたね。
 そうそう、第二話で元力士のデビちゃんが焼き鳥食べてて「焼き鳥か」「満さんもどうですか」って、普通にやりとりしてましたね。他人が食べるのはいいんですね。見ただけであんなに飛び上がるほどダメなのに。

 などと、過去にこだわってはいけないドラマなのは重々承知。

 普通、これだけバラエティ的な要素を盛り込んでバラバラな内容のドラマって、複数の若い脚本家がバラバラに書いているケースが多いのですが、企画者直系のお弟子さんのような方がひとりで書いていて、この統一感のなさ。もはや至芸の域に達していると言ってよいのではないでしょうか。
 追い込み追い込みのギリギリで上がった脚本かと思っていたんですが、TVStationの佐藤東弥ディレクター談によりますと、三月に六話まで脚本の準備稿ができていたそうですが……それで……あの……一話、二話、三話、四話……(笑)?

 だいたい連続ドラマって、とりあえず誰かひとりぐらい、一話から最終話までを見通す人が存在するんじゃないでしょうか。普通はそれがプロデューサーのはずですが、このドラマはプロデューサーが出演しちゃったりして忙しいからそうはいかないのですかねえ……。
 メガヒット的にすさまじい脚本も含めて、それもこれも実はすべて最初からの狙いで、視聴者にツッコんでもらうため、それで話題作になるためでした、というエクスキューズがつきそうだな、すべてが終わったとき。いや、そうなのかもしれませんね、実際。すごいなあ、そうだとしたら。すごすぎる。

 いや、ホントに、五話、六話と、根本的になんとかしてくれ、と言いたくなるツッコミはほとんど必要ありませんでした。というわけで、ツッコミどころにはツッコまずに楽しませていただきますが、演出の間の悪さはなんとかならないものでしょうか。たとえば満の「年上の女」、不倫カップルの「翼を下さい」。なーがーいー。なーがーすーぎーるー。長くてダレるおもしろさを狙っているのでしょうが、「ホントに長くてダレる」のと「長くてダレる、というシーンをききちんと作る」のとは違う。「鶏肉が食べられない満を見せる」シーンも、同じような設定で二度作るなら、もうちょっと違う色にしてほしいなあ。

 しかし、楽しかった。おもしろかった。ホントです。しつこいけど。

 視聴者として五話までに学ばされたことが、六話で見事花開いています。矛盾なんか全然気にならない。ようやく当初の人物設定配置が完了して「さあ、この人は、このキャラは、この子は、今後どうなるんでしょう?」という純粋な物語的興味でひっぱれる地点に無理矢理達しました。なんで裕太は盗聴機に気づくんだ、とか、九太郎がどうやって会場に入ったのか、なぜ間に合うんだ、とか、もちろん気がつくけれど「いいや、別に(笑)」とおおらかに見過ごせる、心の広い人間に育ててくれたこのドラマにはホントに感謝!

 感謝と言えば、田辺誠一、梅津栄。クサナギツヨシ観察人としては、このご両人に今後足を向けて寝られないかも、と思うほど感謝の気持ちでいっぱいです。ああ、切ない(涙)。川べりでポロポロ涙をこぼすおぼっちゃま・田辺誠一。裏切ったふりをしてギリギリの賭に出る忠義の爺・梅津栄。こんなに愛しい梅津さんを見るのは初めてです。ああ梅津栄。昔から大好きな役者さんではありますが、この人が演じる「いいひと」に、本気で涙する日が来るとは!

 そうなのです。わたしは本気で涙ぐんでしまいました。この二人のあまりの愛しさに。

 おぼっちゃまと爺が登場したことで、淀み、くすみ、このまま腐り果ててしまうのか……と気をもんでいた佐野史郎@宮園会長の輝きが復活してきました。それはもう、特選素材の紹介ナレーションまで自分で原稿を書いて担当するほど。いや、あれは絶対書いているでしょう、自分で。会長が輝けば、会長夫人の存在も、彼女がなぜか満に惹かれている、という設定も、すべてが気持ちよく動いています。

 会長夫人とのシーンは当初からよいシーンではありましたが、今回のもどかしさもなかなかのものでした。「二の線で演じよう、と考えてやってるわけではない」とクサナギツヨシはインタビューで語っています。
 満という人を大づかみにつかんで、脚本の無理は大きな流れの中に吸収させてしまい、集中して満の心の動きにシンクロする。いわゆる二の線の満も、崩れっぱなしの満も、元々の脚本ではほとんど多重人格だった“いろんな顔”がすべてひとりの満という人の顔であることを見る人に納得させる。

 しかも綱渡りしながら(笑)。大変な仕事ですが、やりがいはあるでしょう。最後まで、とことんがんばって綱を渡り切ってほしいです。落ちても這い上がって。

 すべては視聴者を楽しませるために。他の誰のためでもなく、自分の満足や名誉のためですらなく、見てくれる人たちに楽しんでもらうために。

 土曜の夜、一週間の疲れを風呂で流し、夕食をとって、ボーッと眺めるテレビ。
 もしかしたら、テレビ界から失われて久しい“お茶の間”が復活する可能性のある時間、その人たちが笑ってちょっと涙ぐんで、「なんでこんなドラマに(汗)?」と自分で驚くほど感動しちゃったりもして、テレビを消しながら「おもしろかったね」とつぶやけるように。

 余談ですが、本日付け日刊スポーツのテレビ特集欄(テレビライフ)がフードファイトです。宮園会長がフードファイトを始めた本当の理由が、今後明らかにされてゆくのだそうです! 楽しみですねー(笑)! この記事は日刊スポーツのホームページで読むことができます。http://www.nikkansports.com/です。

 さらに余談ですが、この記事目当てで買った日刊スポーツに、クサナギツヨシがらみの記述を発見。

 日曜インタビューが内田有紀ちゃんです。いよいよ東京公演が来週に迫った『銀ちゃんが逝く』がらみですね。途中、つかこうへいさんが有紀ちゃんを語っているのですが、その中のほんの数行に「『ストリッパー物語』をクサナギツヨシとのコンビでやってみたい」。

 うわあ……『ストリッパー物語』が出てくるとは! もちろんこの記事は有紀ちゃんの記事で、クサナギツヨシはあくまでそのついで、に出てきてるんですが(笑)、当方はクサナギツヨシ研究所でありますので、あくまでクサナギツヨシに引き寄せて読みます。

 これまでオフィシャルページをずっと読んでいて、蒲田初演、再演、そして終わった後、つかさんがクサナギツヨシで何かをやりたい、と考えておられるであろうことは想像に難くありませんでした。初めて、実際につかさんご自身の言葉を活字で読んで、つかさんがクサナギツヨシを「こういう役」で使ってみたい、それはたぶん、つかさんご自身が「この役をやっているクサナギツヨシ」をご覧になりたいのだろうと、僭越ながら思いました。

 『ストリッパー物語』のヒモ。舞台は未見です。小説好きでした。ひとり芝居バージョン『ヒモのはなし』の戯曲、いちばん好きでした。大好きでした。最後の落とし込みに、涙が止まらなかったのを今も覚えています。

 自分自身の言葉になっていない、こなれぬ表現を使ってしまいますが“男の美学”の物語です。旅回りのストリッパー一座。ストリッパーのヒモで、自堕落でカッコつけで、でも決してさまにならず、女の寄生虫として生きることに徹し、自力で生きられる男だと微塵も思われぬことに命を懸け、女に殴られ蹴られてもひたすら尽くし、客に買われて抱かれる女を応援し、せっかく買ったのにできない客の尻を押し、客をとるのを嫌がる女を叱り、雨の往来ど真ん中でいきなり女とセックスに及ぶこともあり、とことんダメ人間で嫌われもので、だけど愛する女といつか別れるときに叩きつける言葉を胸に抱えている男。

 切なさ爆発であります。
 どうしようもないみっともなさ全開であります。
 しかも、男の美学であります。

 そんなクサナギツヨシが見たい、そんなクサナギツヨシはきっとスゴイ、と、つかさんは考えておられるのでしょうか。

 わたしも見たいです。

 こんなドラマ(あっ)でも、その片鱗が、ほんの、たまに、ですが、見え隠れしております。一回に必ず何度か、伝わってくるものがあります。

 このドラマにまとわりつくあざといことごと、ひとびとを想像するだけで頭痛がしてくるんですが、あっ、もちろん想像ですよ、想像ね、でもそれはそれとして、わたしは満が大好きです。ぼーっと脚本と演出のままに流されて演じたらこの世にとても存在できないキャラクターのはずだった満が大好きです。それを「野島さんの脚本に負けないように」頑張って、綱渡りで存在させているクサナギツヨシを、心から応援します。

 このドラマが終わったその先の、さらにそのずっと先のクサナギツヨシを、ずっとずっと見ていたいから。

  

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