「フードファイト第五回 感想」
〜よかったね、満くん〜

川本 千尋


 ああ、よかったね満くん。寂しかったでしょう、今まで。
 
 第五話、旅行中でなかなか見ることができず、ようやく見た初っぱなの感想がこれでした。やっと、クサナギツヨシが満というキャラクターに寄り添ってくれた。
 
 今回も脚本にはぶっとばせていただきました。部屋に入ってから一度も口をきかないと、息をしていないことになるんですか、宮園さん! すごいっ(笑)! いや、これはお約束のツッコミを期待する部分でしょうからいいんですが、ラストのどんでん返しの伏線がむちゃくちゃなところとか、相変わらずすごい脚本です。
 
 田辺誠一さん演じるおぼっちゃまのライバル。なぜこういう存在が今までなかったのか。なぜ今まで「こんないかがわしいギャンブルに関わってる」ことをネタに脅されるシーンがなかったのか。なぜ今まで料理の説明がなかったのか。なぜ今まで観客席の蠢きがなかったのか。言うだけ虚しい。このドラマ、今から見はじめても十分間に合います。だって五話が第一話だから。
 
 思えば制作発表で「満はいろいろな面があるのでそこも見てください」と言うクサナギツヨシに対して、脚本の見所は「やはりフードファイトのシーンです」と言い切った脚本家さん。1話から3話まで見て、見所と言い切ったそれがこれですか、と、かなりしらけておりました。そして、満という人間の“いろいろな顔”をなんだと思っているのか、これではひとりの人間の裏表ではなく多重人格、もしくは別人じゃないのか。ずっと怒り続けておりました。
 
 クサナギツヨシの本当の気持ちは永遠にわかりません。けれど、満がわからなかっただろう、好きになれなかっただろう、と想像してしまいます。この脚本をもらって、1本目から少なくとも3本目まで、あるいは4本目まで、相当悩んだのではないか、と。いかにプラス思考の人とは言え、この脚本をすべて受け入れてプラス思考でいられたら、それは役者としての感性がおかしい、とまで思いました。
 
 しかし、4話で開き直ったかな、と感じて、そして5話。満とクサナギツヨシの間に、隙間がほとんどなくなっていました。よかったね、満。今までひとりぼっちだった満。喜びも悲しみもとまどいも怒りも、役者に聞いてもらえない単なる独り言だった満。ようやく、満の声をしっかり受け止めて聞いてやる覚悟ができたクサナギツヨシ。こうなれば本来の力を発揮できるかもしれません。
 
 シーンごと、ドラマのパーツごとの芝居ではなく『フードファイト』というドラマ世界を通じての満の心。傷ついたことを自分のダメさの言い訳にしない生き方。それも悠々とクリアするのではなく、ギリギリのところで自分を保っている切なさ。走り高跳びの競技会で最後の1人になり、毎回一度目はバーを落としながら、毎回バーを揺らして観戦者の肝を冷やしながら、それでもなんとかクリアして着実に記録を伸ばしてゆく競技者のような人生。
 
 役者に寄り添ってもらえない役ほど気の毒なものはありません。この世に存在するために創作されたのに、リアルに存在することを許されない。自分を演じてくれる役者に認めてもらえない、呼吸することができない、成仏できないキャラクターたちが、テレビや舞台の空間には古今東西たくさん漂っています。
 
 過去に、クサナギツヨシはキャラクターのカウンセラーに思える、と書いたことがあります。カウンセリングが登場する芝居や映画は数多くありますが、最も印象に残っているのは『グッド・ウィル・ハンティング』という映画です。マット・デイモン扮する教育はないが天才的な頭脳を持つ粗暴な青年と、彼をカウンセリングする心理学者ロビン・ウィリアムズ。知識を獲得することに天才的な能力を持ち、カウンセラーの考えることや意図のみならず、カウンセラー自身の悩みや秘密まで言い当ててしまう患者は、当然のごとくカウンセラーに忌み嫌われます。
 何人目かのカウンセラーであるロビン・ウィリアムズも、彼自身が心に封じていた亡き妻との関係を言い当てられて逆上。しかし、目をそらしていたことを突きつけられて心に新たな風穴が開き、自分と青年と、双方と真っ向から向かい合うことを決意して、具体的な実りのない時間を重ねつつカウンセリングを続けてゆきます。
 
 教師にも、医師にも、カウンセラーにも、クライアントの好き嫌いは厳然と存在します。もちろん、役者にも。
 
 満は、最初の満は、向かい合う価値を感じられない人間だったのではないでしょうか。実際、そんなふうにしか描いてもらっていないキャラクターでした。五話にしてようやく、四話までに多くの視聴者が抱いてきた基本的な疑問の答えがつぎはぎのように出てきて、満が立体的に浮かび上がってきました。
 
 荒唐無稽は大歓迎。ファンタジー大歓迎。どうやら今後「幼いときに別れた生みの母は、こう瞼の上下ぴったり合せ、思い出しゃあ絵に描いたように見えていたものを……」なのかどうかはわからないけどクサナギツヨシの番場の忠太郎が見られるかもしれないらしいし、満に寄り添うクサナギツヨシを思いっきり楽しませてもらいたいと期待しています。脚本のアラすら、満とともに手を取り合って克服しつつ成長していってくれれば、って、これはドキュメンタリーか?
 
 そして最終回はやはり、自分で自分を消化してしまうのでしょうか。あっ、シャレじゃないってば。一話の染五郎さんのように賭博で人生狂った観客に刺される満。しかし、驚異の消化液はナイフすら溶かし、満の体から流れ出たら最後、地球のすべてを溶かしてしまうのであった。人類存亡の危機! 満、どうやって地球を救うのか! オチのつかない思いつきはやめよう>自分。
 
  

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