「フードファイト第四回 感想」
〜「フードファイトって、何ですか?」〜

川本 千尋

 ドラマとは関係ない雑音はともかく、荒唐無稽な話にクサナギツヨシが出ることは、本当に本当に楽しみでした。

 ファンタジー再び。
 『いいひと。』のように、この世にありえない人物を存在させてしまうクサナギツヨシが見たかったから。
 前回まで、主に脚本に対してさまざまな文句をつけてきました。しかし、わたしはどんなに脚本に穴があってもいいんです。論理なんかめちゃくちゃでいいんです。ぶっとんでいいんです。視聴者ほっぽらかしてぶっちゃけていいんです。まともな人が頭抱えるほどの混乱の中を平然と疾走し、その人物にリアリティを持たせてしまうクサナギツヨシが見たいんです。
 たったひとつ、ひとつだけ、明確に答えを出しておいてくれれば。それさえ“すとん”と腑に落ちさせてくれれば、最後「実は全部夢でした」の夢オチだって許します。でも、そのたったひとつ、は、絶対教えてほしい。
 それは、
 
 「フードファイトって、何ですか?」
 
 いやーーーーーーー。
 まーさーかー出演者の口からこのセリフを聞くとは! しかも、それに答えられない満(笑)! 
 いやー、参りました! 降参だ! そうだったのか!
 やっぱり作ってる人も、わからなかったのか!!
 
 びっくりマークの嵐です。いや、もちろん作り手の皆さんは“そういうつもり”で入れたセリフじゃないでしょうが。
 なんで満は必死で闘うのか、満はまだよいとして、挑戦者はなぜ300万の為だけとは思えないほど燃えて必死に挑んでくるのか、逆に言えば、フードファイトに負けたらなんか困ることがあるのか、だって2話の元相撲取りなんか出直して明るい希望を持っちゃってるし、“衰えた食欲の代りに”って話はどこいったんだ、フードファイトしてることがなんでそんなに秘密なんだ、そういうのをひっくるめて、一言で納得させてくれたら、他は何があってもいい! 延々と句読点のない書き言葉のセリフの羅列でもいい! 「なんでぬいぐるみが燃えないで残ってんだ」とか「どうして毎回満と挑戦者が偶然出会うんだ」とか「なぜに満は敗色濃厚なのに最後の10分で勝てるんだ」とか「どうして子供が偶然ファイトの場所に入ってこられるんだ」とか「普通女の嫉妬は男じゃなくてもう一人の女にするもんじゃないのか」とか「祟りで園児に腹痛起こさせることができるなら満にも風邪程度じゃなくマジで祟って勝て!」とか、どうでもいい! 深田恭子ちゃんが実は宇宙人で彼女の胃袋こそ本当に宇宙だった、でもいい! なんでもいい!
 
 満が必死になるのはつくし園の経営が危ないからであの寄付がないとやっていけないからだとか、ファイトに負けたら脳手術をされて過去の記憶を消されるから挑戦者は頑張るとか、なんとかかんとか想像力ふりしぼって無い物ねだりをして参りましたが、四話まできていきなり園長先生が、
 
 「あの匿名の寄付金でなんとかなりたっているような園ですけど」

 一話で言え(爆)!
 
 「フードファイトって、何ですか?」
 
 “これへの答え”がないから苦しくて、毎回脚本にツッコんでまいりました。でももう、脚本にツッコむのは楽しみでしかなくなりました。
 
 そこでなぜツッコまないんだ、裕太! 如月医師! 何度こぶしを握ったことでしょう。唯一優秀なツッコミである九太郎は、園には連れて行ってもらうのに、満が命を賭けて闘うフードファイトの控え室には連れて行ってもらえないのですし。
 しかしツッコむわけはありません。脚本へのツッコミは、視聴者へのご褒美なのですから。これはすごいことです。日本テレビとしては画期的です。
 日本テレビのスポーツ放送は、その120パーセント語り尽くす燃えさかる情熱が好きな人と、鬱陶しい、と嫌う人と二つに分かれます。
  
  「ルイス速い!ルイス速い! うおおおおおお、勝った勝った勝った!
   ルイス勝ったーーーーー! ルイスすごいすごいすごーーーい!」
   
 が日本テレビなら、
  
  「ルイス来た! ルイスが来た!…………………………………
  (10秒間アナウンサー沈黙、音声はスタジアムの大歓声のみ)
   …………(抑えたトーンで)ルイス勝ちました世界新記録」
 
 がNHK。好き好きではありますが、少しは視聴者にゆだねたらいいのになー、ということもすべて語り尽くすのが日本テレビ流なのに、“ツッコミは視聴者の皆様へ”という、この奥ゆかしさは何でしょう。
 
 ああ、桜井幸子さん、美しい。その美しく、汚れなく、説得力ある演技で淡々と、よくぞこんなくだらない話の一輪の白百合となってくださいました。あなたこのオチを嬉々として演じて、そして来週、説明もなくただ登場しないのでしょうね。コメディにとことんありがちな「男みんながメロメロ(死語)になるいい女」を実際に演じられる女優さんがいたとは。わたしは今後、あなたが出るドラマは必ず見ます。見ますとも。
 財津一郎さん、風格。年輪。存在。徹底的にギャグを廃しながら、見逃しませんでしたよ、ファースト登場シーンで味見をしたあとのリアクション。あの間は懐かしいあの間ですね。40年前、八千草薫さん、財津一郎さん、顔は違うけど雰囲気は桜井幸子さんの三人が、ほのかに三角関係であることを知りながら登った雪山。三浦綾子さん、ご覧になってますか、このドラマ。ご覧になってたら怖いですが。
 
 このドラマ、12話通したら、空前絶後に豪華なドラマですね、キャスト的に。三話までのゲストも素晴らしい活躍を見せてくれました。
 
 忘れてはいけません。市川染五郎さん。一話で刺されてくれてありがとう。
 今でもわたしは、染五郎さん演じる坂下が「勝てば天国、負けたら地獄、か」とつぶやいて倒れたことに感謝しております。あれがないと、フードファイトが秘密で大変なことだ、という理由がどこにもないのです。もうなくてもいいけど。

 もう一人、忘れてはいけません。クサナギツヨシ(笑)。
 ふっきれましたね、もしかして。
 先日流れた番宣番組でクサナギツヨシは、
 
 「野島さんの脚本に負けないよう頑張ります」
 
 と言っていましたが、それは「もう真剣に悩むのやめた!」という意味だったのかもなあ、と今回見て思いました。“山崎さん”ではなく、“野島さん”の脚本に負けない(笑)! いいぞ、クサナギツヨシ! その心意気です! 凍える芝居はホントに寒そうだったし、エッチな男の子らしいシーンも、真剣なシーンも、表情豊かでテンポもメリハリも自信があふれてきたように見えました。最後、立ち上がろうとして立ち上がれない園長を見つめる、静かなのに雄弁な顔。ヒーローの顔でした。
 もちろん、これは全部、わたしの想像です、想像。でも所詮、テレビモニターの向こうで起きることは、見る者の想像の産物。

 掲示板にwaneさんがお書きになった「クサナギツヨシの顔」、わたしもまったく同じ危惧を抱いておりました。野島企画の大食いドラマ、には不安はなく、かえって楽しみでした。しかし、クサナギツヨシ自身はどうなんだろう。6月に入ってからでしょうか、テレビで見かける表情、正直言って、わたしにとってはいやな顔が多かった。それが一番、心配でした。いいともを見ても、何を見ても。心配性で思いっきり勘の鋭い友人からも「見た? 嫌いなタイプの顔になってるんだけど……」と電話がかかってくるし。
 充実しているとき、していないとき。クサナギツヨシはモロに顔に出る、とわたしも思いますよ、waneさん。
 そして、今週のいいともでは、実にさわやかないい顔でした。
 ふっきれたな、クサナギツヨシ(笑)! いや、これも全部、わたしの想像です、想像。でも……
 
 ふっきれたクサナギツヨシは怖いぞーー! ぷっすまを見よ(笑)!
 
 次週から田辺誠一さん&梅津栄さん合流。田辺さんのくりんくりんの巻き毛を見ただけで、わたしはもう次週が待ちきれません。
 
 フードファイトの脚本に真剣に悩むのは、サルにらっきょうを与えるようなものだったのかもしれません。わたしはサルでした。もう悩みません。
 でも、今回の異様なテンションが少しでも落ちたら、わたしはいつでもサルに戻ります。
 
 進め、クサナギツヨシ! 
 キミはやっぱり“架空の誰か”に生命を吹き込むために生まれてきた人だよ。
 
  

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