「フードファイト第三回 感想」
〜2020年宇宙の旅〜

川本 千尋

 2020年7月1日。
 地球−火星間中継宇宙基地建設のため、第三スペースラボに滞在中のシンガポール人天文学者が、昴方向約三千万光年の空間に質量不明の異様な存在を確認。即時エマージェンシーコールが発せられた。ラボの全スタッフが集合して見守る中、巨大スクリーンに映し出されたものは……
 
 What's that??
 ...a bowl?
 Not a plain bowl. Beef bowl.
 
 「牛丼だ」。つぶやいた日本人物理学者の目に光るものがあった。
 「満にいちゃん、にいちゃんの胃袋は、本当に宇宙だったんだね。宇宙につながっていたんだね」
 裕太は、牛丼のかなたに浮かぶ逆マウント型UFOがラーメンであり、その後ろのフライングソーサーがカレーライスであることを、そして、この食べ物達がどこからやって来たのか、誰の意志によって現れたのか、後に生体エネルギーによる異空間発生及び物質電送技術完成の端緒となった長い長い物語を、同僚達に語り始めた……。
 
 最終回を予想してみました。チープだろうなあ、スペースラボの書き割り……。
 
 なんかねえ。これは最終回用準備稿ですが(うそつけ)、毎回冒頭にそんなナレーションがあってもいいんじゃないかなあ、と思うんですよ、このドラマ。
 「老いとともに失いつつある食欲を、他人が食べているのを見ることで満たす」というフードファイトの拠ってたつところ。一話でさらりと一行言っただけですましてるんですよねえ。
 薄汚い金で世のグルメを味わい尽くした政財界の妖怪どもが、若者の食欲に金を賭けることで興奮する。それを伝えないと、この話、わかんないですもの。
 
 いやー、しかしおもしろかった、三話。疲れて帰宅して、すらー、っと見ちゃうと、いやーん、クサナギツヨシかっこいいじゃーん(疲労のため人格崩壊気味)でした。これ、二話と同じドラマか? 同じ脚本家か? と思うほど違いました。比較的テンポがあったし。テンポを感じる、ということは、二話も三話も同じ長さなのですから、中身がより詰まっていた、ということですね。スカスカだったんですねえ、二話。寒いギャグの後処理なども、あと少し早く切り上げれば、というところが随所にありましたが、監督によってこうも違うものなのですね。
 
 お約束の泣かせも気持ちよくて、何よりいしだ壱成! 怪しい〜〜〜すてきーーーーー(笑)! いしだがとことん怪しいゆえに、正義の味方らしい満が浮かび上がってありがたかったです。
 かっこよかったですねーっ、満! 最後に風船ガムふくらまして破裂してぺちゃっ、とくっつけたまま去ってゆく姿、ヒーローです! 如月医師が白衣のままバイクで待っている、というのも爆笑しながら感激。医師がほうったメットを受け取って、ぷうっと風船ガム。これも効いてました。
 冴香とはさらに接近。車で送ってくるって、ねえ、ホントに旦那にバレてないの、冴香さん(笑)。宮沢りえ、イキイキしてますね。夫との冷たいやりとりにはさまる微妙な表情、満といるときのつっぱった表情、肩に力の入らないかわいい表情。
 久美子役の女の子もうまかった。子供が表情を消す芝居って、そうそう時間はもたないのでシーンはあのくらいの短さでちょうどよかったのでしょう。久美子が意志を持った瞳でバックミラーを見て、自分でドアをあけてとびだすところからラストまで、じーんときちゃいました。いいぞ、満にいちゃん!
  
 しかし。
 
 見終わって落ち着くと、やはりおかしい。というか、見ている時からどこか胃の腑の隅に残る気持ち悪さ。脚本ですね、やはり。
 
 この対決、問題は、催眠なのか、辛さなのか。たぶん辛さだったんでしょう、最初は。だってフードファイトなんだもの。
 
 「激辛は常にブームだし、サーカスの芸をやりすぎて味覚を感じなくなったマジシャンと激辛メニュー対決、ってどう?」
 「いいねいいね!」
 「燃えるね、それは!」
 
 ワクワクしますよね、これを思いついたら。さぞや企画会議、盛り上がったことでしょう。しかし、実際に脚本にする作業を始めてみたら、満がどうやってそれに勝つか、思いつかなかったんじゃないでしょうか。
 ……いいのかそれで。
 
 で、しかたないので催眠をとってつけて、ガムで対抗する、という方法で応急処置したんじゃないかなあ。結局激辛を克服したのは、満の根性、ですか? しかもその根性を叩き直してくれたのが麻奈美さんの張り手であり、子供達のお手本にならなきゃ、という思い、ですか? ですよね。わはははははは。ええ加減にせんかーーーっ! もちろん、わたしの想像にすぎませんけどね。
 
 このドラマには、建て増し建て増しでどこに何があるのかワケのわからなくなった温泉旅館のような趣があります。宴会で酔っぱらってなくても一度部屋を出たら戻れない旅館、ありますよね。ああいう感じ。あるいは、
 ここに十人の子供がいます。みんなで大きなレゴの作品を作ります。では各自、好きなものを作りなさい。そして子供達は、好き好きに作りました。ひとつひとつには意表をつく素晴らしい作品もありました。でも、それらをくっつけてみたら、なんだかわけのわからないものになってしまいました。そんな感じ。
 
 辛さと催眠も、単独のパーツをバラバラに考えて、あとで適当に組み合わせている、という印象はぬぐえません。ファイトと子供の問題がまったくリンクしていないのも同じです。回が進んできて手詰まりになる、というのならわかりますが、まだ三回でこれですか。
 
 
 そして、単独のパーツひとつひとつは、けっこうおもしろかったりするのです。

 「舌を酷使しすぎて味覚を感じないマジシャン」。よくぞ考えつきました。怪しいです。哀しいです。うっとりします。フードファイトは味覚を度外視した大食い対決なので「まずいもの」だったら満は無敵でしょう。しかし、辛い、のはどうしようもない。生体が拒否する。魅力的なパーツです。
 
 「大切なものを失うのが怖くて眠らない子供」。それだけで泣けます。クサナギツヨシがあのモノローグシーンで流した涙は本物です。あのシーン単独に切り取ってこのパーツに限定したら、泣けます。
 
 ドラマが始まる前のインタビュー記事で、クサナギツヨシはしきりと「よくこんなことおもいつくなあ、と思う。すごくおもしろい」と絶賛していました。もちろんセールストークでもありましょうが、実際、撮り始める前に聞いた話はおもしろかっただろうと想像できます。
 
 野島氏とスタッフがクサナギツヨシに語った「一話から最終話までの流れ」は、たぶん、相当おもしろかったんじゃないかなあ。明らかになってゆく満の過去や行く末は、当然クサナギツヨシに伝わっていますよね? でなければ演技のしようがないですよね。
 あっ、話がそれますが、TEAMでわたしが不満だったのはここでした。風見という素晴らしいキャラクターの人間としての本質、過去。あれだけ作りこんだ作品なら、しっかりした設定があったのではないか、と期待したのです。しかし、途中から風見くんは、適度にええとこのボンボンであるまっとうな熱血青年になってしまいました。それでも魅力は十分でしたが、せっかく少年犯罪という素材です、風見もついこの間まで少年だったのです、受験戦争のまっただなかを勝ち進んで来たのです、もっともっと、具体的な何かがあってもよかったのに、とがっかりしました。
 
 話をフードファイトに戻します。「一話から最終話にいたる流れ」と「各話に盛り込まれるパーツ」について聞いたら、ドキドキするほどおもしろかった。でも、実際に撮り始めてみたら……??? クサナギツヨシの気持ちは想像するしかありませんが、あの脚本で納得しているとは思いたくないです。いくらなんでも。
 
 昨今のドラマは、大御所は別として脚本家一人で書くことはめったになく、プロデューサーやディレクターとブレーンストーミングしながら固めてゆくのがほとんどである、と、以前何かのドラマのメーキング番組で見ました。その是非はともかく、だったら余計に、もっとみんな知恵出せよ。頭数そろえるだけじゃなくて。パーツについては野島氏が相当出したのでしょうね、おそらく。で、「あとはよろしく」なのかなあ。やはり責任とってほしかったです、野島氏に。その思いつきを、ちゃんと自分の言葉で結実させてほしかった。
 
 些細なことですが、一話からずっと気になっているのは、しゃべり言葉と書き言葉が気持ち悪く混ざっていることです。
 
 「人がいいばっかりにだまされて借金ばかり作っていったが、自分にとってとっても優しいお父さんが、彼女は大好きだったんでしょう」
 
 「借金だらけ。だけど自分にとって」
 
 とか、二文にしませんか、せめて。
 
 「俺の私生活に興味でもあるのか」
 
 「俺のプライバシーに興味あるのか」
 
 と言ってほしい。「シセ」イカツという歯擦音の連続と「プ」ライ「バ」シーという破裂音を冒頭と半ばに含む言葉と、どっちが耳に快く、インパクトがあるでしょう。文字ならどっちでもいい。でもセリフなのだから。
 
 まさに重箱の隅つつきですが、すべて「ココロザシ」に関わることだと思うのです。穴はあってもいい。どこか抜けてしまっていてもいい。でも「みんなでおもしろいドラマを作るのだ!」というココロザシが、制作側にいまいち感じられないから怒っているのです。一人一人はよいものを作ろうとしているのかもしれない。でも、どうしてもっと協力しないのか。脚本を練り上げる段階で努力しないのか。最悪、現場でセリフをちょっと変えるだけでも流れがよくなる場合もあるのに。
 
 それを全部やって今の状態、というのであれば、あきらめもつきますが。
 
 なお「パンツ」ですが、野島氏なら「母親へのトラウマ」として使ってる可能性もあるんじゃないでしょうか。女性の下着泥棒でつかまった少年。児童相談所でゆっくり話を聞いてみたら、実は幼い頃に別れた母への思慕ゆえであった、という記事を読んだことがあります。性徴としての欲望ではなく、母の愛を女性用の下着に求めてしまったのだそうです。……まあ、そんな裏があるないに関わらず、あの使い方は単純におもしろくない。クレヨンしんちゃんやポケモンのサトシの無邪気でまっすぐなエッチのおもしろさを、どう実写ドラマ、しかも主人公は20代半ばという作品で使うか。もう少し考えてほしい。

 満の過去と行く末には、まだ期待しています。「フードファイトという仕組み」がいまだに成り立っていないのですから。満の過去があきらかになるのを待つしかないのですから。
 
 そしてクサナギツヨシは。
 
 パーツごとの勝負に出ている気がします。このシーンは単独で完結して成り立っているから、その中でがんばる。この話は流れているから、その中でがんばる。わからないところは……とりあえず無難に通過。また、よく考えると流れていないのに、彼本来の、しっかりと心の底に根を張った優しさや力強さが感動を与えてくれるシーンもある。いい勝負を見せてくれるパーツがあるから、喜んで見続けます。増えてくれることを期待します。当たり前ですが、一話の頭から終わりまで、ちゃんと流れる回がありますことを、特に期待いたします。


 

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