「フードファイト第一回 感想」
〜本日の味付け:大辛〜

松本 有紀


蒲田行進曲後のクサナギツヨシの仕事にはいつも泣かされる。

初演の最中に情報が入ってきた、「メッセンジャー」。
ホイチョイプロダクションの制作だと聞いた時には全身の力が抜けた。「うそでしょ・・・」
もともとホイチョイプロ作品の浮かれた感じがあまり得意ではなかった。
そこに、あの、今まさに全身で自分を表現し始めたクサナギツヨシが投入されるのかと思ったら、ほんとうに悔し涙さえ浮かびかけたのを覚えている。

ところが、できあがった作品をおそるおそる観にいったら、「浮かれた」というよりは、かろやかな、実にさわやかな作品であった。

そして、わたしがホイチョイプロ作品が苦手だったもう一つの理由、マニアックすぎるほどディテイルにこだわるところが、「メッセンジャー」ではむしろ物足りないくらいに感じられ、

「アンチ、っていうのは、『裏返しの熱烈なファンだ』というような言い方があるけれども、わたしのホイチョイプロ作品に対する思い、ってまさにそれかもしれないなぁ」

などと思ってしまったのであった。

結論:「メッセンジャー」はいい作品でした。

そして、蒲田行進曲再演後。

再演でのクサナギツヨシはその演技に力強さをいっそう増し、つかこうへい氏は再三にわたる演出の変更を加え、東京公演最後のクサナギツヨシの姿の後ろには、広大な宇宙すら見えてくるようになっていた。

そしてその後、待ちに待った連続ドラマ主演。

「俺の胃袋は宇宙だ」

・・・ってさぁ・・・・・

わたしの全身の力は、初演後よりももっともっと深く抜けた。力が抜けすぎて、なぜか笑いがこみあげてきて、情報の載った新聞記事をみながらずっと笑い転げていた。

それから約一ヶ月。基本的にずっと笑い転げていたのだが、なぜだかときどき背中に冷や汗が流れたりしていた。

神棚にペスカトーレでも供えておくか、と、最後は訳わかんなくなっていた。

そしてついに、一回目のオンエアを見る日はやってきた。
激しい番宣の嵐については多くを語るつもりはない。「クサナギくん、がんばることを期待されてるね。で、がんばってるね」と思って見ていただけだ、という感想にとどめる。

で、ドラマ本体。
・・・・・・。
正直、感想を書くのが難しい。
最初の一言で何を言い出すかで決まってしまうような気がする。
「面白かった」ではじめれば、面白かったことがたくさん言える。
「つまんなかった」ではじめれば、つまんなかったことばかり書いてしまう。

人はどう思ったのだろうか、と、他人の感想ばかり気になってしまう。

わたしの友人まわりでは、幸い、思いのほか好評であった。「フードファイト、よかったじゃん。面白かったよ」とたくさんの方にお声をかけていただいた。

だから安心して言っちゃう。

「つまんなかった」(爆)。

基本的なことをお断りしておきたいのだが、わたしは通常テレビドラマを見ない。テレビすらあまり見ない。もともとみたい番組が(たまに)あって、それを見るためにテレビをつけ、それが終わるとテレビを消す。「もともとみたい番組」にテレビドラマが入っていることは少ない。だから「なんとなくテレビを見ていたら・・・」ということはわたしにはありえないので、しかしごくたまたま、「なんとなくテレビをつけたら、そこにクサナギツヨシが出ていた。そして一気にのめりこみ・・・」というのがクサナギツヨシとわたしとの出会いだったのだから、この時点でそもそも奇跡みたいなものなのだが、まぁその話は別として。

だからわたしには、「ドラマフリークの観点からこのドラマは」とか、「そもそもテレビ作品の方法論としてこのドラマは」というような語りが出来ない。ただ、自分の好みに合っているか否か、そこでしか判断できない。

で、そうだとしたら、「否」が今回の最初の感想になったわけである。

土曜9時日本テレビ系のドラマは、「子供向け」の側面もあるのだと聞いた。漫画っぽい、奇想天外なストーリーが面白いのだと。
そして今回、わたしの周りだけの話ではあるが、おおむね子どもには好評のようである。

でも。
それってただ設定が目新しいから面白がってるだけじゃないの?

ドラマとしての設定はたしかに新しくて、面白いと思うのである。「大食い」というのを賭け事にして、そこで一人孤独に戦う無敵のファイター、という設定は、たしかに「斬新と言えば斬新」だと思う。

「競争」とか「勝負」っていうのは、スポーツでも、囲碁や将棋やチェスでもそうだけど、ほんものが本気でやってる勝負が面白いに決まっている。

でもそこに、それを素材にして、あえて「主人公」を一人決めたドラマや小説や漫画が存在するというのは、その勝負にいたるまでの主人公の葛藤や、背景、とりまく人間関係、みたいなものが丹念に描かれて、そして加えてその勝負への切り札となる、主人公の絶対の秘密兵器、「魔球」とか「秘技」(?)とか、そういうのが「どーん」と出てきて、「やったぁ!すっきり」という風になるからではないのか、と思うのである。そういうものの面白さはそこにあるのではないかと。

そこが今回ぜんぜん感じられない。初回ということで、それぞれの設定を説明する部分が多かったのだ、ということを割り引いても、もともとあるかなり「イケるかもしれない」設定に、ドラマとしてのふくらみがまったく感じられない。

たしかに、愛のない会長夫婦、とか、新入りの施設の子の抱える問題、とか、井原をとりまく1対1の人間関係とか、今後の展開の伏線になりそうなものはてんこ盛りであった。でも、あれ、ちゃんとふくらませていってくれるのか?というのが疑問として残る。途中で「あれはどうなっちゃったの?」っていうことにならないでほしいの。是非。

今回観て、役者さんたちの眉がみんな「八の字」になってるような気がした。「どう演じたらよいのかわかんない」「どういう役柄を期待されてるのかわかんない」と戸惑いつつ演じているような。

クサナギツヨシに至っては、どう演じていいかわからないあまりに、今まで彼が演じてきたすべての役を、あらゆる場所でバラバラに出しちゃってる気がした。「いいひと。」の優ニになってたり、「蒲田」のヤスが出てきたり、「メッセンジャー」の鈴木や、「TEAM」の風見の表情してたり。クサナギツヨシの過去のお仕事一覧表じゃないんだから。

・・・ものすごい言いたい放題になってしまいました・・・。

とにかく、わたし、このドラマの設定、好きなんです。最初に不安に思っていたのは、もっともっと、なんというか、どぎつい、とんでもないドラマになってしまうのではないかと思っていたからなんですけれど、見てみたらそうでもなかった。落ち着いた、効果も要所要所でちゃんと効いている、「普通のドラマ」の形をしてました。

あとは、この設定をどうふくらませてくれるかにかかっています。役者さんが自分の役ってどういうことなのか、どういうものなのか、理解して演じてくださっているのだなぁ、とわたしが感じられるようになることを祈ってます。脚本の山崎さん、どうか、よろしくお願いします。

ここまで言いたい放題を言っていて最後にナンですが・・・

わたし、「すみま百円」大好きです(笑)。普段の生活に使おうーっと。・・・・しょせんわたしってこんなやつ・・・・


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